「外資・合弁への影響」とは
あまりにも「記事の」影響が大きすぎるので、blogでも急ぎ書いておきます。出回っている記事に言いたいことはたくさんありますが・・・。
何があったのかというと、中国政府が2月に発表した「ネットワーク出版サービス管理規定」の中身がやや異なる印象で伝えられた点にあります。この規定の公布後、米紙(NewYorkTimes)の記事から日本のいくつかのネットの記事に繋がり、「中国は外資・合弁のデジタルコンテンツの配信について制限」という見出しだけが独り歩きしてしまいました。新たな規制が行われたという印象が強く伝わったようですが、そもそも外資も合弁も中国の中では認められておらず、この点についての状況は従来と変わりはありません。
ネットワーク出版サービス管理規定 (中国語)
また、サーバを中国に置かなければならないという点が強調されている記事も見受けられますが、そもそも中国国内に配信するサービスで中国にサーバを置かずしてスムースに提供できるケースはほぼありません。(即ち、規定によって義務化されるといっても、実態上既に中国国内でのコンテンツサービスにおいて、中国国外にインフラを置くというケースは想定し難いということです)
規定の歴史
この規定の前身となる暫定規定は2002年に施行されていました(互联网出版管理暂行规定)。この暫定規定は、今回の新規定の施行に伴い廃止されます。この暫定規定の中では必ずしも外資・合弁を禁止するという点については明確化されていませんでしたが、2002年当時の中国のインターネット産業の状況を考慮すれば、外資・合弁を禁止することについてこの暫定規定において明確化する必要性は必ずしもなかったともいえます。
インターネット出版管理暫定規定(新規定の施行に伴い廃止。中国語。)
3月10日から何かが変わるのか
結論、今のところは日系企業としての影響は基本的に何も変わりません。詳細をお知りになりたい方は、まず、クララオンラインのレポートをぜひご覧ください。
ネットワーク出版サービス管理規定の施行について」(PDF・無料)
具体的には、外資・合弁企業に対しては、
- 外商投資産業目録でネットワーク出版業務を営むことについては禁止。(国家発展改革委員会・商務部)
- アニメ・ゲーム等の配信を行う際に取得が義務付けられているネットワーク文化経営許可証は内資企業以外は取得できず。(文化部)
- インターネットを通じた有料コンテンツ配信を行う際に必要なICPライセンスは、外国資本が50%を超えない範囲の合弁には発行されることを規定していますが、実務上は近年は合弁への発行事案は見られない。(工業情報化部)
などのような制約が存在し、そもそも従来から外資・合弁が自由に展開できる事業領域ではなかったものです。
一方、近年の日系のゲーム、アニメ等の動画その他デジタルコンテンツについては、中国企業に対してライセンスしているケースが中心です。ライセンシー側が適切な経営許可の取得及び輸入審査の手続きを経ていればよく、そもそもそれをすっ飛ばしているところに対してライセンスアウトするという事案は(きちんとした案件であれば)見当たらないように思います。さらに、iOSについてはApp Storeが中国国外のサービスであるという位置づけであるわけですが、これについては今までの当社のレポートをお読みいただくと、どのようなバランスになっているかがご理解頂けると思います。
なお、中国国内の企業(内資企業)にとっては、ネットワーク出版サービス許可証を取得することが義務付けられる範囲が明確化されたことにより、ゲーム・地図サービス・アニメの配信等を行う事業者も新たに許可証の取得が必要になる(第7条・第8条)という点で影響がありますが、これについては内資企業にとってはさほどハードルが高いことではなく、かつオンラインゲームなどの事業を営んできた事業者は、従来のインターネット出版許可証を所持していることが多く、この点もあまり大きな問題にはならないと考えています。
3月10日以降、実務面に何らかの変化があれば、引き続きこのblogや当社のレポート等で追いかけていきたいと思います。