アジア各国の27歳までのメンバーが集うオーケストラ、Asian Youth Orchestra。毎年3週間の香港でのキャンプと3週間のアジア中へのツアーの計6週間を、アジアの様々な国から集まった若い約100人のオーケストラメンバーが一緒に行動します。今年で21年目。今年のツアーは8月6日の天津を皮切りに、北京、クアラルンプール、シンガポール、ハノイ、バンコク、香港、台北、東京と9都市をまわってきました。東京は先週26日の金曜日と28日の日曜日の2回。金曜日は初台のオペラシティで、日曜日は昭和女子大学の人見記念講堂(2000人も入る立派なコンサートホール様式のホールです)でした。常陸宮ご夫妻と中国大使も鑑賞されていたそうです(我々は2階席にいたため直接はわかりませんでした)。
去年は香港で、今年は東京でこのオーケストラを見る機会を得ました。2日目の東京での演目で選ばれたプロコフィエフの1番もよかったし、チャイコフスキーの4番も最高でした。ソロをひいたStefan Jackiwのバイオリンも最高。オーケストラメンバーの若さは、そのまま演奏のパワーに変換されています。2時間半ほどの時間があっというまでした。
前回香港で聞いたときにもありましたが、全ての演目が終わったあとに、どの国から何人参加しているかを指揮者のRichard Pontzious が観客に紹介し、メンバーは立って観客からの拍手にこたえます。どうやら恒例のようです。そして僕はここでアジアを強烈に感じます。韓国、フィリピン、ベトナム、マレーシア、台湾、中国、香港、シンガポール、タイ、日本と、アジア中の国でのオーディションをステップにしてきた若者がここにいるのです。若ければ高校生という人もいます。
彼らはこの日曜日の東京の公演が最後でした。毎年メンバーは入れ替わります。Pontzious も言っていましたが、つまりこのメンバーでの演奏は二度とありません。アンコールの曲の最中、シンバルとパーカッションの二人の若い彼らは肩を抱き合い、手を結び合っていました。涙をふいているのが見えました。若い彼らにとって、様々な国から集まって一緒に過ごした6週間や、アジア各国へのツアーはとても貴重な経験だったはずです。
実はこのオーケストラには私の妹が去年と今年、参加させていただいていました。各国の最高のコンサートホールで、アジア中の国々から来ているメンバーと、そしてアジアの主要都市をまわる、という素晴らしい機会の中にいれていただきました。将来の期待される若い音楽家たちの姿は素晴らしいものがあり、また私自身も妹の参加によってAYOを知ることができました。ただ、一方で音楽の世界は決してやさしい道のりではありません。安定した職を得るにも、また世界で学ぶ機会を得るにも、それぞれ様々な高いハードルがあります。いつかこの若い音楽家のために出来るようにぜひなりたい、とこれを書きながら思うところです。
わずか66年前、このオーケストラメンバーの出身の国々は争いの中にいました。その後の中国での共産党・国民党との争いや、朝鮮戦争・ベトナム戦争なども含めれば、参加していたメンバーの出身地は、戦地になったり、あるいは敵味方に分かれていたという時代がつい少し前まであったわけです。それが10代・20代の活躍する現在では、一つの音色を国境や言葉、政治などを越えて奏でるにまで大きく変化しました。僕は今回改めて、若い世代によるアジアの未来を感じたし、国境を越えた多様な人材同士も同じ目的のもとには繋がりあえるという確信を強めることができました。AYOの来年以降のさらなる発展を祈っています。