中国の法令のアップデートを追いかけるのは至難の業です。日本のように法制度が整っている国という状況とは異なり、新しい法令が次々と公表され、かつ古い法令がそのまま残っているために「実態と違うじゃん!」という話にたくさんぶつかります。私たちが取り扱うところで悩ましい法令の代表格は「商用暗号管理条例」。暗号というものの範囲が極めてあいまいなので、SSLはどうなんだ、ZIPをパスワードかけて暗号化するのはどうなんだ、という極めて初歩的なところで解釈が分かれます(ハードディスクを暗号化するソフトです、というのが対象になるというぐらいの分かりやすさならばまだよいのです)。ちなみに、法令を厳格に運用しようと思ったら、街中で売られている無線ルータやFirewallのようなVPN機能・SSL機能等を搭載している機器は売れなくなります。次に悩ましいのは、「電信条例」(日本の電気通信事業法に相当)の下にぶら下がる電信業務分類目録。過去のblog記事にも書きましたがこれは2003年が最後の分類なので、もはやクラウド時代の分類に追いついていません。そろそろ改訂版が出る頃だと思っていますが、パブコメ以降2年も音沙汰がなくなりました。ハヨシテーナ。。
法令の解釈を得るには
一般的な方法は、弁護士事務所に弁護士意見書(法律意見書)、もしくはメモランダムを頼むことです。弁護士事務所といっても色々なので、多くは渉外法律事務所と呼ばれる国際的な取引を専門にしている法律事務所に依頼することになります。正式な意見を得たい場合には弁護士意見書、解釈について弁護士の見解を把握したい程度という場合にはメモランダムということになりますが、さらに簡易的に確認したいのであればメールで見解をもらうという方法もあります。
適切な意見を得るために
弁護士意見は、これこれこういうことについて適法性を確認したいので意見書をください、といって簡単に書いてもらえるものでもありません。事業の前提が何なのか、どのようなサービスなのか、誰から仕入れていて誰に売ろうとしているのか、など様々な前提の情報が必要になります。
ところが、中国のインターネット・モバイル市場の動きが速いということもあり、日本の弁護士、もしくは中国の律師(中国の弁護士)で正確に日本と中国の両方の市場の動向や技術的なアップデートを豊富にもっていらっしゃる方というのは極めて限られています。クララオンラインの場合、日本の正社員として中国律師を採用しただけでなく、日本の大手弁護士事務所や中国の大手弁護士事務所で特にインターネット・モバイルに係るケースを多く経験されている弁護士の方と連携することにより、クライアントからの問い合わせに対してスムースに対応できるようにしています。
もう一つ、私たちが関与することによって、上に書いたようなクライアントの事業の前提情報を丁寧に整理して、専門家が理解しやすいようにコミュニケーションをとるということも行っています。私たちのように実務の現場にいて、かつ自社の事業として中国側の当局とのやり取りの経験がある者が入ることで、クライアントが直接コミュニケーションをとられるよりもスムースになるというメリットがあるのです。実際、このケースを数多く取り扱ってきました。
法律意見を取る前に理解しておいた方がよいこと
専門家の意見書は経営の重要な判断の一材料です。法令について専門家の意見を確認するという手続き自体、重要な意思決定の場合には特におすすめします。とはいえ、冒頭に書いたように中国の法令は日本と比べて曖昧な範囲が多く、また当局への照会をしても(匿名・実名の両方の手段がありえます)、地方によって答えが違うということも珍しくありません。それが中国です。結果、書き方によっては、意見書には保守的な表現でしか書いていただけないといことも実際にあります。そうするとクライアントからは「他社でやっているところがあるじゃん!」「あそこは同じようにやっているのに、うちはこの意見書を受け取ると経営がGOしてくれないよ!」という反応になることもあります。
明確になっている法令ならばまだ良いでしょう。「赤信号はわたってはいけない」と書いてあれば、赤信号で渡った時の責任はすべて自分にあります。ちなみに、中国の道路交通安全法第26条にも赤信号は渡ってはならないときちんと書いてあります。ところが、曖昧な法令についての解釈については、保守的な意見に寄らざるを得ません。適法・違法と明確にされている範囲が狭かったり、その範囲の定義が曖昧だったりするためです。このことは、特に事前に理解しておいた方がよいでしょう。
私たちは直接法令に対するアドバイスを行うことは出来ませんが、このような場合、直近の動向、同業他社の状況、中央テレビなどの報道姿勢(最近事件としてこのような報道姿勢が多いなとか。だいたいその分野への関心が高まっていることを示している。)、当局とのコミュニケーションなどを通じて、実務に近い立場での助言を提供するように心がけるようにしています。
それでは。