感じたこと

違法なブローカーの存在を感じさせるオーバーステイ

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あるタイ人の裁判の例

ある裁判(東京地裁)でこのようなケースがありました。起訴されたのはタイ人男性で、4年超の不法残留(オーバーステイ)で出入国管理及び難民認定法違反で逮捕、起訴されました。本人が起訴事実を認めて反省しており弁護側も異議はなく、かつ本人は帰国する意思を示していることから裁判自体は即決裁判が行われ、懲役2年、執行猶予3年が言い渡されました。控訴しなければこのまま入国管理局に収容されたあと、退去強制となります。(執行猶予期間中に日本に来ないこと、または日本に正規の手段で入国しても他の事件を起こして実刑判決が言い渡されることがなければ当然刑務所に行くことはありません。国に戻ることになるだけのため、この手の裁判では起訴事実を全面的に争うことは少ないといえます。)

ちなみにこの裁判でも本人はもともとあと3ヶ月程度で帰国するつもりだったと証言していますが、戻る意思はなく日本に居続けるつもりだったと言うよりも、稼いだら戻るつもりだったとすることが多いようです。いざ帰国する段になったときには出国命令制度を利用して帰国するなどを考えていたのでしょうか。

被告の男性は水道工事の配管工をしながら日本で暮らし、給与のうち約半額をタイに仕送りしていたとのこと。タイには内縁の妻と子がおり、今後は「年齢も高いので人生の終わりに向けて」彼女らと農業をして暮らしていくということです。日本では概ね夜8時から朝5時まで働き、20万円程度の月収があったが、タイに戻ると農業では2000バーツ(約7千円)になるということでした。

二度目のオーバーステイだった

最初は単なるオーバーステイで逮捕されたのかと思いきや、4年のオーバーステイで日本語が生活するに最低限必要な程度は話せる(日本語で住所を番地から逆に話していたのにはやや驚き、日本の生活にそこまで馴染んでいなかったのではないかとも感じさせられました。)のはすごいなと思ったところ、オーバーステイは二度目。前回は約19年間のオーバーステイで摘発されたとのこと。本人は前回が何年のオーバーステイだったかを明確には記憶していない様子で、検察官から「20年近くでしょう」と言われて「はい」と答えていました。

ああ、これだけ日本社会にいれば日本語も出来るようになるのだろうな、と思いつつも、オーバーステイの状態では相当に不自由だったはずで、いったいこの人はどのように日々の生活を送っていたのだろうかとも感じました。

おそらくはブローカーの存在

その上で、改めてここに今のオーバーステイの一つの実態があると感じたのは、おそらくは裏側に違法なブローカーの存在があったであろうということです。男性はオーバーステイ前の日本での在留資格は「永住者の配偶者等」だったが、その配偶者、即ち婚姻届を出している法的な妻は所在がわからないとのこと。その配偶者の所在がつかめないために在留特別許可の申請が許可されなかった→オーバーステイで居続けた、となったといいます。

所在が分からないのは当然で、法律上の配偶者である永住者はおそらく偽装のための存在でしかなく、本人にとって活動に制限がほぼないこの在留資格が得られればそこで終わります。裁判内では在留資格の取得については触れられていないためあくまで個人的な推測ですが、典型的なパターンでもあり、また本人はこうした背景は概ね理解していたことでしょう。

近年の不法残留の問題として相変わらず残り続けるこのような方法につき、入国管理局は結婚の実態を確認するプロセスを採るなどしているとしていますが、当然「本当の」婚姻関係に基づいて在留資格を申請する人も多くいるわけであり、しかも男女の婚姻関係には様々なパターンがありますから一概にこのかたちでなければならないということも出来ないかもしれません。

雇う側の意識。雇う側があるから無くならない。

このような裁判を見ると、本人やブローカーの責任はもちろんのことですが、もう片方、即ち「雇う側の意識」にいつも疑問が生じます。外国籍である者を採用するには旅券又は在留カード等により、「在留資格」「在留期間」「在留期限」を確認することが必要です。ただ、このルールが等しく守られているならば当然このようなオーバーステイで働いているというケースになることはないわけで、実態は安い労働力として雇う存在が常に国内にあるため、結果として需給のバランスが出来上がっています。

ブローカーや違法な採用をする企業を取り締まるためにも不法就労助長罪(入管法73条の2)の適用があるわけで、摘発事案は毎年徐々に減りつつあるものの、その強化には引き続き努力していただきたいと思います。

正しく働く。正しく雇う。隠れた問題を残さない。

一方、日本で働く外国籍の大半の人たちは必要となる仕事に応じて在留資格をもって働いています。当社も既に15年近くにわたって外国籍従業員と一緒に働き続けてきたという歴史があります。ただ正直なところ、実務の現場としては、本人の申告に基づくものだけではなく、もう少し管理を網羅的にしてほしいとも感じます。

その一例は入管法第19条の資格外活動で、1週間あたり28時間の制限について、自社では28時間未満であっても複数のアルバイト先で合計されているため、本人の申告が正しくない場合には把握する術が限られています。

きれいごとを言うつもりは全くありませんが、より国際化する社会に突入していく流れである以上、正しく働く、正しく雇う、隠れた問題を残さない、という3点についての議論がより深まってほしいと考えています。

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