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日本と中国における公専公形式のインターネット接続

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中国とクラウドとインターネット的「国際公専公」

にわかに「中国」「クラウド」「国際公専公」という3つのキーワードが重なる界隈に動きが見られるようになってきました。中国と外国との間ではクラウドサービスのリージョン間接続は認められないとの考えが存在してきた中、Aliyunが風穴を空けてきたのです。

噂では、これがどうやっても実現できないせいで中国大陸の展開を先送りにしていたクラウドサービスもありました。近年、クラウドサービスのリージョン間接続は国内だけでなく国際間でのニーズも高いわけですが、中国のインターネットの規制を考慮するとこれをどう出来るかという問題があったわけです。なぜならば、中国と外国の仮想サーバ同士の通信はどう取り扱うのよ、という問題があるためです(基礎電信業務経営許可を国際の範囲でとり、ISPライセンスを持ち、通信を公衆網と同等に監視するということならば出来るという方法も規制上考えられはする)。どうであれ、特にWebサイトにはユーザに対する制限等の記載は見当たらないまま登場してきました。

Aliyunのサービスページの情報

以下のようにパブリックネットワーク(公衆網)と「高速通道」(リージョン間のVPC同士の通信)との差を説明されています。SDNを使って最適な経路を選択しているという記載もあります。

Aliyunの仕様書情報
何が驚きであったかというと、「これ、やるんだ」という話しであります。よってここでは、関係者の方たちからの話しを聞く前に客観的に中国と国際公専公の話を整理し、その上で、機会があれば関係者のコメントを得てご紹介したいと思います。

国際公専公とは

国際専用線の両端に公衆網を接続することを「公専公」または「国際公専公」といいます。その昔、まだ国際電話が非常に高額だった時代、日本と外国との間の国際専用線を借りた上で両端に交換機等を接続し、日本は日本の公衆網、外国は外国の公衆網と接続し、日本と外国との間の電話をそれぞれ国内通話料金+アルファだけで使えるようにするといった事業者が出てきました。もう20年以上前の話です。約款外役務提供契約という存在に書かれた条項が壁でした。

また、国際電話の場合には、発信した側が料金を収納する一方、着信した側との間ではそのコストについて精算する仕組みがあります。一方、その仕組みが公正な競争の原理が働かずに運用されているケースも昔からありました。そして、インターネット電話の技術から進めば進む一方、国際電話の料金と国際専用線の料金の差をうまく利用しようと考える人たちが出てくるのも当然でした。

「国際公専公」について細かく取り上げることが本題ではないためある程度割愛しますが、わが国では1997年に国際公専公接続が解禁され、これによって国際インターネット電話(IP Telephony)分野はさらに前進しました。両端に公衆網が繋がりますので、東京03からかけてアメリカまでは専用線網でいき、そこからまたアメリカ国内の公衆網で接続するといったことが合法的にできるようになったわけです。公専公の歴史だけをとりまとめた良い資料は残念ながら見当たりませんが、旧郵政省の決定資料では当時の市場の様子を少し垣間見ることができますので参考に紹介します。

12/22付:国際公専公接続の自由化に関する方針の決定

中国におけるインターネット通信の「公専公」

ところで、日本やアメリカでは国際電話が国際通信における主流の時代に「公専公」を解禁してしまっていたのでこの20年のインターネットの発展において具体的な検討は起きなかったものの、中国においては未だ電信条例において「国際公専公」を禁止する条文が残っています(以下は2016年改正版)。

第五十八条 任何组织或者个人不得有下列扰乱电信市场秩序的行为:
(一)采取租用电信国际专线、私设转接设备或者其他方法,擅自经营国际或者香港特别行政区、澳门特别行政区和台湾地区电信业务;

すなわち、国際専用線などを借りて勝手に国際接続サービスをやるな、ということです。電信業務ですので電話や通信のいずれかに限定しているわけではありません。私の推測ですが、この条例が出来た2000年当時の中国の状況を考えるとインターネット通信の「国際公専公」はそこまで想定しておらず、ましてやクラウドの存在はなく、おそらくは、そもそもユーザとして国際専用線を借りて、それを又貸しまたは一部転用して第三者に貸し出すかたちでの国際電話や国際接続サービスをやるなと包括的に禁止したかっただけであろうと思います。また、そもそも国際電信に関する業務は内資100パーセント企業に対する許可制です。無許可でやるなよと繰り返しているに過ぎないとも言えます。

ちなみに10年ぐらい前に中国でこうした仕事をしないかと現地のキャリアの地方会社(キャリアは全て地方ごとに単位が分かれている)から誘われて検討したことがありましたが、厳密には違法であったとしてもキャリアからするとこの手の仕事で儲けているユーザがいるのを知っていたはずで、その儲けがただ流れていくぐらいならば知った先と組んでやろうとしたのかなと今では思います。

クラウドサービスの規範化

2016年11月、工信部が「关于规范云服务市场经营行为的通知」の意見募集稿を出しました。色々なことに触れていますが、ちょうどある海外ブランドのクラウドサービスにおいて顧客との契約方式についてこれより前に問題が起きていた(その後顧客との契約方式を変えて問題は解消した)ことなどを意識した内容が中心ではあったものの、一つだけ異質な条文がありました。それが以下です。

云服务经营者应在境内建设云服务平台,相关服务器与境外联网时,应通过工业和信息化部批准的互联网国际业务出入口进行连接,不得通过专线、虚拟专用网络(VPN)等其他方式自行建立或使用其他信道进行国际联网。

どの国でも同じですが、誰も動いていないところを突然国が言い出すということはありません。よって誰かが動いた、または動いていたと考えるのが自然です。一つは先のとは別の海外ブランドのクラウドサービスがこれを展開しようとしたがっていたことは耳に入ってきていましたし、それ以外のクラウドサービスでも同様の話しが上がっていました。さらに中国国内のクラウドサービスについてもこの時期より前から検討がされていたのを聞いています。

こうした中で工信部としては、無許可で勝手にバイパス作るなよ、というメッセージを出したわけです。もっとも、結局この意見募集稿が正式な版に格上げされた形跡はありません。よってこれはまだ「出ていない」ものとして取り扱われるとすると、電信条例第58条しか制限を加えているものは存在せず、少し斜めからの解釈をすれば冒頭のように基礎電信業務経営許可で国際の範囲でとり、ISPライセンスを持ってしまえば出来なくもないといえます。が、国際の範囲での基礎電信業務経営許可が新たに認められたという話しはありません。

しかし、この「風穴」は中国にとっては微妙な諸刃の剣になる可能性があります。なぜならば、中国のクラウドサービスに認めるということは、海外ブランドのクラウドサービスにも認めるロジックが出来上がる可能性があるからです。海外ブランドのクラウドサービスは全て中国にあるパートナー企業(内資)が契約主体となっています。よって、海外ブランドであろうと中国においてはそのサービス主体は中国企業であることにより条件は揃っており、あとは要件がなんだったのかということに我々の関心は移ることになります。

今後の可能性

実は今回紹介したAliyunだけでなく、他の中国のクラウド・ネットワークサービス企業でも同様の動きがあります。全体的に古くからの大手企業ではこの手の展開は聞こえてきませんが、新興企業の中には既に日本にPOPをもって準備を進めているところもあります。実際、私たちも両方のリージョン間で計測させてもらいましたが「いいスピード」が出ていました。この両端にインターネットを繋げれば幸せになれるよなーと思いつつ、Great Firewallや中国における国際通信の考え方を根本的に壊してしまうことにもなり、このあとの道のりはやや険しいだろうとも感じます。

まず、私個人が想定する今後の可能性はいくつかあります。一つは「実験的」にしばらく様子を見て何らかの本格的な規制をいれるかどうか検討。もう一つは、価格設定でのコントロール。いわゆる昔の国際公専公は、閉域線網でバイパスするというよりもコストを下げることに目的がありました。よって提供価格を専用線やIP-VPNなどと比較して大きく下げなければ市場が大きく崩れることはなく、利用者も限定されるだろうと考えることもできます。まぁ、日本と中国以外の場所で中国のキャリアが売っている日本・中国間の接続性(IP Transit)の価格がチラチラ聞こえてくるところでは、それもあってないようなものという気もします。

最後はクラウド事業者側に一定の資格を持たせること。既存の分類では該当するものが無いので何らかの範囲の資格を持たせることにするというのが現実的ですが、一定の通信の監視と安全管理を義務付けることで認めるという方向性も考えられます(そういえば分類に該当しない新業態への対応の通知が最近出ていましたね)。

いずれにしても、公表されている通知等ではこれらが認められるという根拠は見当たりませんが、中国では通知がずいぶんと時間が経過してから通知が「ぺろっ」と公表されることもありますし、そもそも内規レベルであれば公表もされません。むしろ、これはやってもいいよという通知が出たときには市場は終わっています。すなわち、今回は、赤信号でも青信号であるとも書かれていない道路を「堂々と渡った人がいる」ということが重要な変化なのです。本当にただ道路を横断したのかもしれませんが、実はそこには私たちには見えない横断歩道が書かれているかもしれないわけです。

では。

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