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自転車メディアなどを運営されている
「FRAME」という国内屈指の自転車メディアなどを展開されている自転車創業さんに出資させていただいた(TechCrunchでの記事はこちら)。
社長の中島さんにお会いして事業のストーリーを伺った瞬間からご一緒したいとビビっときた。メンバーも皆さんすごい。取り組むべき場所も、気づかれている方向性も共感する。共感どころか、学ばせていただきたいと思った。さらには社名のネーミングセンスにもひっくり返りそうになった。社内でこの話を説明したら全員がまず社名に驚いた。スタートアップにとって印象に残る社名は絶対的に強い。出資させていただくことに至って本当に幸せである。
自転車創業さんの事業内容は記事などにお任せするとして、今日は今後のクララオンラインの自転車領域への取り組みの意欲を残しておきたい。当たり前だが、クララオンラインがなぜ自転車なのか、何を見出したのかは皆さんにとってクエスチョンマークだらけだと分かっている。
本当はずっとクエスチョンマークだらけのままでもいいと思っていたが(気づかれたくないので)、12月に入ってそれは違うと気づいた。私の気づいていない多くの知恵を頂いたほうが実現性が高いと感じたからだ。
自転車が来る。2018年は日本は「シェアバイク元年」になる。
この iemoto BLOGをお読みいただいていもお分かりいただけるとおり、最近の私の頭の中は「自転車×社会」というキーワードに占められている。仕事でもシェアバイクのコンサルティングに関わり、中国で自転車工場にあちこち回り、中国に限らずあちこちのシェアバイクをなめ回すかのように見てきた。
ところが、クララオンラインが取り組むcross-borderでのborderは国境と既成概念の二つだといい続けているのだが、「自転車×社会」にはまさに隔たりがある。長年、日本では自転車は便利であれど行政的には扱いにくい存在としてみられてきた。
しかし、2017年5月の自転車活用推進法の施行、中国のこの1年半のシェアバイク市場の急成長、そして来年いよいよ日本でも大きく広まるだろう「eBike市場」、そして環境や災害時対策だけでなく二次交通課題の対応としても自転車は注目を集めている。すくなくとも日本は自転車市場に劇的なイノベーションはなかった。むしろ自転車産業は弱まる一方だった。ついに自転車の流れが変わろうとしている。
自転車×バッテリーでイノベーションが生まれ、通信と位置情報と電子決済で進化した
まず、電動アシスト市場の成長はご存知のとおりである。街中で見る電動アシストの数は明らかにこの5年で増えた。それは決して偏った見方ではない。まず世界の自転車産業は年率3%程度で伸び、2022年には349億ドルになるという(Lucintel, 2017)。世界でみれば衰退産業ではない。さらに、街中で見る量が増えているのは数字が裏付けており、日本国内の電動アシストの市場は対前年比で1割以上伸びていのだ(GfK, 2017)。
ただし、いわゆるママチャリ・街乗りのレンジである1万円台の自転車の出荷台数や売上規模はどう考えても伸びないし、実際にそうなっている。世界の自転車生産を支える中国も、今回のシェアバイクブームがなければかなりの数の工場が倒れていたはずである(功罪あるのでこれはまた別に書く。低い価格レンジの自転車だけの生産で今の自転車のバリューチェーンは到底支えられない。)
具体的には、市場を牽引するのは電動アシスト領域と、電動アシストのユニットが搭載されるロードバイク・クロスバイクの領域。Boschが日本市場向けにも2018年からついに電動アシストのユニットの投入をはじめるが、eBikeと呼ばれる領域に関心が集まる理由の一つはこのユニット市場がついに国内メーカーだけでなくグローバルメーカーも供給を始めるということだ。自転車産業は水平分業が歴史的にみられ、こうした新しい動きが完成車のモデルにも影響を及ぼす。もちろん、電動アシストユニットをつけていないロードバイクの領域も素材やデザイン面での変化が進み、高級路線を中心に単価の高い自転車領域も伸びる。
そして中国ではシェアバイクでの変化がきた
1年ほど前、mobikeがバッテリーとソーラーパネルと通信機能と位置情報を自転車に組み合わせ、市場に大量投下した。ofoも追いかけて通信機能と位置情報を組み合わせた。これで絨毯爆撃並みに中国はオレンジ色と黄色に染まったわけである。この間、言葉通り「鍵」となるスマートロック自体の製造メーカーも広東を中心に増え、単価も下がってきた。そして中国は世界でもっとも早くNB-IoTがくる。
しかも中国政府がこの大きな流れを止めなかった。全体的には受容し、細かなところを整えようとしている。ルールは夏以降に次々と出てきているし、日本の報道で出てくるような無茶苦茶な駐輪状態は、地方政府単位でだいぶ改善しようという流れがある。投入量が多すぎる場合には減らせといい、強制的に撤去させたり投入数を制限したりもしている。
この変化を起こしたイノベーターは私などより若い2人である。mobikeは1982年、ofoは1991年生まれの創業者である。中国はこの若い2人の挑戦を許容し、同時に自転車という中国でも実は相当古い産業の一つに若い世代が切り込んだ。
自転車と社会というBorderに取り組む
クララオンラインはインターネットインフラの会社として経営基盤を作ってきた。そして10年以上前に中国に進出し、一度は失敗しながらも中国と日本でのお客様のビジネスの架け橋・先導役になろうと取り組んできた。この間に、日本が中国に進出する目的は大きくかわり、低コスト工場の中国から、市場の中国になった。ところが、早くも次の段階にある。タイムマシン経営が「China to Japan」で成り立つ状況にあるのである。
深圳の記事を書くとそれに違う方向から反応する人がいたり、中国すごいという記事に対して何を限られたところを見ている、という人もいる。私の身近にもいる。しかし経営という立場から見れば、2017年は恐ろしいほど立ち位置が変わった。どうかそういう日本のビジネスパーソンには気づいてほしい。タイムマシンが全ての正解ではないが、日本が20年見てきたSilicon Valley to Japanだけじゃない。China to Japanがもはや成り立つ。加えてLocalizeは欠かせない。それがまさに前稿の駐輪課題であり、あるいは走行ルールの課題である。
モビリティとしての自転車、IoTとしての自転車
私は自転車のモビリティとしての進化、スポーツ競技としての存在に興味をもつのは当然のこと、もう一つ、IoTのデバイスとしての自転車に興味がある。なぜこぞって中国の通信キャリアがmobikeやofoと組んだか。間違いなくそれはIoTのデバイスとして自転車を見ているからである。今まで出来なかった人の移動の可視化があっという間に完成した。
通信キャリアから見れば、スマートフォンに入るSIMカードの数には限界がある。ユーザ数の勝負でしかない。そこで新たな開拓市場としてIoTデバイスに注目が集まるも、大量にSIMカードが出るようなデバイスは実はさほど出てきていない。ところが自転車はどうだ。中国に限れば、今年前半までの自転車を除けば、その後はほぼ全てがデータ通信の端末だ。以前、人と自転車の関係をセンサー・アクチュエーターだといった中国の投資家の言葉を書いたが(「全ての人はセンサーに、アクチュエーターになった」、本当にそうなる。
自転車には、スポーツ競技、ホビーとしての存在と、移動手段として人が便利に使う存在とがある。そこで盗難と違法駐輪と走行ルールという3つの課題が日本社会での受容を阻んできたが、少なくとも前2つはIoT×自転車で変化が起きると信じている。そして走行ルールや環境は、冒頭書いたように日本中で整備が進む道が始まっている。
ある日ここに書いたことに気づいたときに、広い意味での「自転車」が来る、と確信した。
自転車領域に取り組む
動くものという意味では2017年はドローンがきた。そして2位、3位のフランス米国メーカー(Parrot、3DR)との競争に勝ち、DJIが世界の8割の市場をとった。ただし、本質は、DJIがすごいということだけではない。DJIのドローンを使って何をするかだ。自転車も同じではないか。人の移動は、今までの交通手段だけではカバーできない。もう地下鉄のためにトンネルを掘ったり、不採算路線のバスを行政がサポートするには限界がある。
そこで2018年の変化は自転車だ。クララオンラインは、今までのIT・クラウド・通信領域の積み重ねが大量にある。そして中国と日本との間にいる。中国との事業経験の豊富さは日系のベンチャーの中では負ける気がしない。さらに、スポーツとITという概念のborderを越えることにも取り組んできた。もちろん自転車領域では小僧だ。学ばせていただきたい。先生を求めている。するならば、自転車領域の方たちと一緒に働かせていただくしかない。今までの自転車産業の歴史についても深く勉強する必要がある。自転車のレジェンドにも教えを乞いつつ、スタートアップの方たちとも組んでいきたい。そう考えて、まず一社目に組ませていただく先に自転車創業さんという存在に出会うことができた。
年が明けたら、次々と自転車領域での取り組みをまとめいく。イノベーターたるスタートアップの方たちには資金も人的リソースもシステムも必要だ。到底私たちの思いだけでは支えられない。一緒に動いていただける仲間をもっと増やしたい。資金も必要としている。中国の、世界の若い自転車ベンチャーとも組んでいきたい。
私自身も猛烈に学んでいる最中だが、とてもとても日本の自転車産業の方たちの積み重ねには及ばない。IoT、スポーツ競技、自転車とその部品、観光、災害対策、新たな販売方法などといったテーマで自転車に関わる新しい動きをされている方がいらっしゃれば、ぜひお取り組みを教えていただきたい。