輸入自転車はどこから来ているのか
2017年は中国国内の多くの自転車工場を巡ってきた。シェアバイク領域はオレンジ色と黄色で決着がついたかと思いきや、滴滴によるbluegogoの買収のニュースが飛び込み、青色復活の兆しがでてきた(どうもほぼ何も引き継がないようだが)。今年も中国の自転車工場は急がしそうである。
さて、自転車の話をしていると「えー、日本製の自転車のほうがよくない?」「イタリア製の自転車かっこいいよね」「アメリカ製のがいい!」というお話しが身近なところからたくさん聞こえてくる。自転車がお好きな方にとってはブランドの国籍と製造国が一致しないことはもはや当然中の当然、という話だろう。ただ、自転車を普段利用するだけという一般ユーザーにとってはどこかで聞いたことがある、ぐらいの話でしかないかもしれない。あるいは、そもそも意識したことさえないかもしれない。
イタリアやアメリカの国旗が並ぶのだが
眺めているだけ幸せになれるロードバイクのカタログ本『ロードバイク オールカタログ 2018』(エイ出版社)を開くと、ブランドごとに整理されたページを見れば国旗は豊かにさまざまななものが並ぶ。先週末、ある自転車店で1時間以上話し込み、試乗してドキドキし、そして最後に「キャンペーン中ですよ!」という甘い言葉に危うく(!?)「買う!!」と言いそうになったのがドイツブランドの自転車。でもそれはドイツで作っているわけではない。余談だが、そのカタログムックは危険である。物欲が刺激されすぎる。そして家人に値段が見えるのはよくない。値段部分は暗号化しておいてほしい。
そう、実際には高い単価の自転車以外にはイタリアやアメリカからの輸入車はほぼ存在しない。20-30万円ぐらいの自転車でもかなり難しい。それどころか、完成車はほぼ中国からの輸入である。1台あたりの輸入単価がそれを裏付けている。
アメリカの貿易統計を眺める
さて、貿易統計の時間がやってきた。今日はまずアメリカの貿易統計(USA Trade Online)で日本向けの輸出を調べることにする。
2017年1月から11月までの11ヶ月間でアメリカから日本に輸出された自転車の台数は合計2,575台。アメリカの貿易統計では25インチを超えるか超えないかで分類(輸出)が分かれるが、ロードバイクやMTBなどはほぼ25インチを超えるとして、該当する「8712002600」を眺めていく。その数、858台。1台あたり2,281USD。
この輸出単価からわかるとおり、まず輸出側から見ても比較的価格レンジの高い自転車が輸出の中心であるということがわかる。なお、アメリカの貿易統計はFAS(船側渡)価格であるが、FOBと大きな差はない(と、貿易会社もあるのに大雑把なことを言ってみた)。
次に日本の貿易統計を眺める
続いて、日本の貿易統計で輸入状況を確認する。今日も手間を省いてCSVをExcelに落としたものを切り取る適当さをお許し願いたい。日本の貿易統計ではロードバイク等のスポーツ車が「その他」なのでアメリカの貿易統計とブツけると分かりにくいのだが、同じく2017年1月から11月までに輸入され通関した自転車の合計数は649台。
数字が合わないわけだが今日は重要な論点ではないので置いておく。このような論点については『貿易統計の不整合問題』(小坂・布施・鹿島, 2011)などがある。
そこでほかの国を眺めてみよう。イタリアは11ヶ月合計で313台、ドイツは同じく641台だ。なお、特に貿易統計でロードバイクまわりを見る場合にはその他の分類である「8712.00-299」を、マウンテンバイクやロードバイクは「8712.00-100」を見ればよい(細かい点は後述)。
ところがこの期間、中国からは全数で612万5,706台、台湾からは13万3,206台である。残念ながらアメリカ、イタリア、ドイツなど自転車ブランド国とは数量の単位がかけ離れている。
ただし、一台あたりの単価は圧倒的に違う。前述の8712.00-299に対象を絞れば、中国からの単価は1台あたり11,581円、台湾からは70,266円のところ、ドイツからでは286,184円、イタリアからでは381,102円、アメリカからは426,584円となる。欧米からは高級な自転車の輸入が中心である、ということがわかる。
統計の読み取りには注意が必要
上の表を読み解くには少し難しい問題もある。8712.00-299にはロードバイクだけでなく、「外装変速機付軽快車」と「ジュニア用マウンテンバイク」も含まれる(日本自転車産業振興協会)。「外装変速機付軽快車」とは、簡単にいうとギアが外側に見えるタイプの変速機付のママチャリである。ところがロードバイクとママチャリ、となるとこれらは単価が違いすぎる。そしてドイツやイタリアから変速機付ママチャリがきているわけではない(!)。つまりドイツやイタリア、アメリカからきている自転車は、その単価が示すようにほぼロードバイクだと推測できる。一方、中国からはロードバイクもママチャリもジュニア用マウンテンバイクも全部来ている。分類が一緒になってしまったせいでもはや何がどうなっているかは日本側では読み取れない。
他方、ロードで比較しても同じ「自転車」とはいえ、フレームやコンポだけでなくありとあらゆるものが違うものであるといえる。輸入量や輸入価格から見れば販売価格が10万円を切るものの大半は中国から輸入されているということは明らかだ。もっとも、中国が安い自転車しか生産していないということを言いたいわけでもない。中国も高級ロードバイクの人気がどんどん上がっている。それはECサイトを眺めてみても、専門サイトを見ていてもわかる。
先日深圳の自転車展示会に行ってきたところでは、このような自転車も見かけた(販売価格は聞いていないが、上のはコンポまわりみるとお安くはなさそう)。
カンボジアだ。
ところで貿易統計は常に新しい発見を提供してくれる。カンボジアだ。
カンボジアからはこの11ヶ月で1,595台の自転車が輸入されているのだが、実は世界的に見るとカンボジアが自転車の生産拠点として拡大している。日本向けは僅かであるが、世界では既に上位に入る生産国になりつつある。
その主な仕向地はEUだという。少し古いが日経の記事(2015.9.26)によれば「カンボジアの自転車輸出額は4.2億ドル(約500億円)で、10年に比べ約6倍に急拡大」という。確かに、台湾メーカーを中心としてカンボジアに生産拠点を展開してきた報道がいくつかみられる。(もともと自転車産業に限らず台湾企業のカンボジア展開は大きい)
カンボジアの統計を調べようと思ったが、カンボジアの税関のWebでは残念ながらまったくデータに到達できない。eurostatあたりを探すとして、これらは後日にとっておくことにする。