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チャリチャリのエリアの考え方

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ちょっとだけチャリチャリの裏側をお話ししようと思います。

エリアを拡げてほしいというお声にどう向き合っているのか

よく「チャリチャリをこのエリアに拡げてほしい〜」というお声をいただきます。でもなんで拡がらないんだ、とのお叱りも。チャリチャリの中のメンバーにとってはこのお声は嬉しくもあり、ご期待にこたえきれていないと思うと苦しくも感じることがあります。

具体的に多いお声でいえば、福岡だと九州大学伊都キャンパス方面、福岡大学と七隈線沿線、そして雑餉隈方面。熊本では電車通り沿いから健軍方面も西熊本方面も、と。メルチャリ時代の最初は博多天神ウォーターフロントの回遊性というテーマで狭い範囲からはじまり、そこから徐々にエリアを拡げました。その途中、アイランドシティ方面に拡げようといったのは自分でしたが、ニーズがあるだろうかと不安な社内の声もあった時期もありました。いまは福岡市内のエリア面積でみると100平方キロを超え、お隣の志免町や粕屋町にもポートが一部あります。行政界は移動からみると単なる点線でしかないですしね。

ちなみに熊本市では、3カ年の拡張計画を先に公表するという日本では結構珍しい取り組みをしました。今年度は事業の採算性を見込んだうえで皆さんからのご要望をきちんと受けとめているということをお伝えしたかったからです。

2024年3月に公表した熊本市でのエリア計画。健軍・江津湖・日赤エリアが今年度の拡大想定。

さて、ではなぜエリアが皆さんのご期待どおりに拡がらないのでしょうか。掘り下げてみると、1.ご利用見込みからの採算、2.運営体制の確保、3.交通結節点でのビッグポート確保という3つが大きな課題として挙げられます。

  1. については、チャリチャリは、1台あたり1日平均4回以上のご利用が採算ラインです(前提として、1回あたりのご利用時間は実はどの都市で展開してもある値に収斂します。展開面積によりますが1回あたりの平均ご利用時間って実は世界でもだいたい同じです。)。実は2回までは朝夕のご利用が見込めれば実現できるのですが、そこから+2回となると昼間や夜の人の移動でご利用いただけるだろうかと考えるわけです。もちろん、やってみないと分からないし、すぐに結果は出ませんから取り組んでみてはじめて分かることもあります。
  2. については、エリアを拡げるとなるとその地域で再配置やバッテリー交換の体制をとれるかとなります。福岡市では東区松島と中央区長浜に拠点があります。エリアが拡がっている熊本市では最近2ヶ所めの倉庫を立ち上げました。現状の拠点から遠すぎると必要な態勢がとれないということになってしまうため、拠点の立ち上げや採用が出来るかをみています。
  3. についてが実はもっとも大きな課題です。目的地となる場所にポートが必要なだけでなく、地下鉄やバスとの乗り継ぎをされる方たちのためには駅やバスターミナルに大きなポートの場所が必要です。私のXのポストなどを観ていただいてもおわかりいただけるとおり、世界でシェアサイクルの利用が進む地域では交通結節点に何十台どころか100台単位のポートの場所を確保しています。ところがなかなかそのような場所を既にまちづくりが進む都市部でお借りすることはそう簡単には叶いません。久留米市でのチャリチャリのように西鉄久留米やJR久留米駅前の道路上の場所をお借りできるとなるのが一番よいのですが。そうなりと、需要はあるはずなのに駅前のポートの場所が小さくなってしまい、結果的に利便性が確保できない、となってしまうのです。端的に、3.が実現できないと1.の採算ラインにまでいかないというジレンマもあります。

事業として成立させなくてはならない意思

3つの課題を挙げましたが、これは言い訳ではありません。私たちとしては、そのエリアでチャリチャリを使いたいとおっしゃってくださっている方がいらっしゃるならば、なんとかして実現できるように考えぬこうと努力します。その解決例が、オフィシャルパートナー制度です。公金をいただかないで事業を実施する際、利用料収入だけでは見通しが立ちにくい場面は少なからずあります。そこで、地域活性化や地域ブランディングなどの目的をもって民間企業の皆さんに地域のチャリチャリをお支えいただくかたちをご提案しています。すでに久留米市でのチャリチャリではこのかたちで筑邦銀行さんにご参画をいただいています。

平均1日4回以上という採算ラインについてみると、平均1日4回ですから降雨日などを考慮すると晴れている日には1日5〜5.5回ぐらいは使われないと成立しないことになります。しかしこれを見込むことができるのは一定の規模のある都市圏ということになってしまいます。大都市圏の周辺都市部になると平日昼間はどうしても人の動きが少ないとなったり、夕方から夜にかけて人の動きが少ないとなり、4〜5回転という数字は見込めないのです。日本が特殊なのではなく、世界でも概ね同じです。

では、利用が見込みにくい都市、具体的な指標で見ると昼間人口比率(昼間と夜間の人口比率)が低く平日昼間の日常の移動でご利用いただく期待が高くない都市においてはシェアサイクルは導入できないのでしょうか。ある時期までは私自身はこれは難しいと考えてきました。ただ、最近はその考え方が変化しつつあります。ポイントは、上述したオフィシャルパートナー制度という収支に直接影響する力をお借りすることと、もう一つ『地域ドミナント』という視点です。

2024年に入って開始した久留米市や佐賀市、桑名市は、それぞれ福岡・熊本と名古屋という既存のチャリチャリのエリアとの経済的・人的なつながりが強くあります。都市としては距離は離れているものの、僅かながらでもサービスへの認知を既にいただいていたり、お客さまのご利用が複数の地域で重なるということもあります。広域で捉えることによって事業の可能性を見出すこともできるようになってきました。

エリア間で損失補填をしてはならない

ところで、私の明確なもう一つの意思に、損失を他エリアでの収益から補填しないという点があります。社内ではよく国鉄の歴史の例を挙げます。シェアサイクルを例にすると、この地域での要望(または計画)がある、ただし、1日1.5回転から2回転しか見通すことができない。しかし周辺がそれを上回るからその収益で損失を補填すればいいのではないか、という外部からの声です。

あっちが赤字でもこっちが黒字だからそれで損失を補填できるだろうとすると結果的に全体が沈むことは歴史が示しています。公共事業としてならばやむを得ずこの考え方も成り立つ場面もあるかもしれませんが、近年は民間企業の考え方を取り入れる傾向のなか、あっても極めて限定的な考え方だといえるでしょう。私の大学の時のテーマの一つが新幹線債務の負担割合だったということは過去に書いた気がしますが、こうした「稼げる路線と赤字ローカル線」の組み合わせは過去に幾度と議論されつくしてきたものでして、無理が生ずるものです。

今後の可能性

チャリチャリの各都市のチームは、都市ごとにどのようにエリアを設定し、どのようにポートの密度を実現すればご利用いただきやすいかを必死に考えてくれています。常々言うことは、それを考えるときにここにこれぐらいのポート数があればきっと使ってもらえるよねという私たちのエゴであってはならない、ということです。普段生活されたり行き来されている方の動きを見て、お話しを聞いて、こういうところが強い課題(ペイン)なんだ、ここをとても期待されているんだということを見つけ出すことが私たちの仕事です。皆さんにご協力いただきながらそうして実現したポートこそ、真に価値のあるポートになっているはずです。LINEヤフーコミュニケーションズさんとの協働で取り組ませていただいている「おねがいチャリチャリ!“あったらいいなポート”大募集」こそ、まさにそのお声を皆さんからいただくための重要な存在です。リクエストが可視化され、その熱意が土地をお貸しだしいただく方にもまた伝わり、ポートというかたちにエネルギー変換されるのです。

シェアサイクルは私たちにとっては地域に根ざす中でのHowの一つでしかなく、まちづくり、そしてまちづくりにおいてとても重要な交通という課題に向き合っていくことが私たちのスタンスです。GROUNDED IN THE COMMUNITY。毎日ここを意識しています。

ぜひ、一緒に考えましょう。様々な職種でメンバーを募集中です!

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