成田からシンガポールに飛んでいる上空で書いています。先ほど機内で「お帰りの便も一緒のようです」とCAさんから声をかけていただきました。なんと、私の帰りのフライトでのシートがどこなのか、その位置までも把握されています。「短いご滞在で大変ですね」とも。このように「お客様のことを、私たちはきちんと把握し、理解しています」という姿勢は、いつどのような仕事であっても、またそれが仕組み化されているもの(データを先に見て、それをもとに会話している場合)であったとしても、まずは顧客を安心させます。
お客様を知るということは、単にお客様の企業情報を把握している、お客様の最新の製品・サービス動向を把握している、ということではありません。
お客様のところへ伺うことがあります。お客様は私たちに会話の中でいくつかの「キーワード」を出されることがあります。その「キーワード」というボールは、多くのケースでは小さな小さなボールです。ボールに瞬時に反応でき、これをうまく打ち返せると、「この相手は自分たちのビジネスを理解している」と気づいていただけます。そして、お客様の口からはより具体的な話が続きます。ところが、出てきたボールを打ち返せないと、おそらくお客様はその時点で心の中では諦められています。
テニスに近いのではないでしょうか。まずサーブを打つ。その瞬間、相手の動きを見る。脚の動き、ボールへの反応、目線。いい反応が返ってくると、おおこいつイケるなと思うわけです。ところが、レシーブの強さを見て相手の動きがそこまででもなければ、「相手は強くは打ち返せない。こちらも適度にしておこう」となるわけです。相手が弱いのに強い球を打ち続ける人はいません。最初の5秒で「判断される」のです。
「お客様の先で色々とお話しができました」と報告をうけても、実はお客様が諦めているままで時間を過ごしただけかもしれません。「自分はお客様のボールを打ち返すことができている」という勘違いは危険です。逆に、適切に会話のラリーが出来たのであれば、会話から相手の何かを引き出した結果が伴っているといえます。
結局、お客様の力を「引き出して」「ノッていただいて」「私たちに何かを期待していただく」ためには、こちらが強くならなければならないのです。そのためには、テニスだったら練習、その前に基礎体力。テクニカルな強さも必要ですし、相手の次の動きを読む戦略も必要。ビジネスの現場でも同じです。表面的な会話は見抜かれます。